ハチミツの歴史

ここでは『ハチミツの歴史』( ルーシー・M・ロング 著 大山 晶 訳  原書房)を、ハチミツ関連本として紹介しています。

 

『ハチミツの歴史』( ルーシー・M・ロング )

ルーシー・M・ロング氏による『ハチミツの歴史』(大山 晶 訳)は、原書房から出版されている「食」の図書館シリーズの一冊(原シリーズはイギリスから出版)です。

 

 

この『ハチミツの歴史』は訳者の大山晶氏が「世界中で長年にわたり愛されてきたハチミツがどのように食べられ、飲まれ、文化に取り入れられてきたのかを余すことなく伝えてくれる」と「訳者あとがき」で述べている通り、甘美なハチミツを舐める以外に、書物の言葉によってハチミツの知られざる側面と魅力を味わわせてくれる貴重な一冊になっています。

 

栄養豊富な蜂蜜免疫力のアップや殺菌・抗菌疲労回復など、様々な健康効果が期待できますが、この『ハチミツの歴史』では、序章「ハチミツとは何か」に始まり、「ハチミツの甘い歴史」、「ハチミツができるまで」「ハチミツを食べる」、「ハチミツを飲む」(主にミードの話題)と、世界の歴史や文化のなかで蜂蜜や養蜂がどのような役割を果たしてきたかが、多岐にわたって語られています。

 

 

また、第6章「ハチミツと文化」においては、「「ハチミツ」の語源」や「ハチミツの象徴的意味」、「文学とメディアにおけるハチミツ」(たとえば『くまのプーさん』)など、単に食べるだけに止まらないハチミツの話題についてふれることができます。

 

以下、『ハチミツの歴史』のなかの印象的なくだりを引用します。

 ハチミツは人類の歴史において重要な役割を果たし、さまざまなグループの存続に寄与し、ときには歴史の流れを変えることすらあった。今ではその役割も変化し、補助的な甘味料とみなされることが多くなっているものの、ハチミツは多くの文化の食習慣において今なお重要な食品であり続けている。ルーシー・M・ロング『ハチミツの歴史』  大山 晶 訳 p14~15

『ハチミツの歴史』

 ハチミツは昔から神話に登場してきた。宗教儀式でも大きな役割を担っている。神々の食べ物と考えられ、ハチミツに関係した創造神話もあるほどだ。今日でも、言語、芸術、大衆文化において特徴的な役割を果たしている。その甘さは恋愛と関係づけられ、「ハチミツ」という言葉は愛情のこもった呼びかけによく使われる。誠実で正直な発言とハチミツを関連づけた言いまわしもあるし、食品や栄養補助食品や化粧品にハチミツが入っていれば、ナチュラルで高級な印象が強くなる。ルーシー・M・ロング『ハチミツの歴史』  大山 晶 訳 p9

 

 

 ハチミツの歴史はミツバチの歴史とからみあっている。ミツバチ信仰の歴史、ミツバチからハチミツを採取した歴史、そしてハチミツを確実かつ容易に収穫することを目指した養蜂の歴史だ。ミツバチそのものは文学、美術、音楽といった想像力あふれる分野で題材にされ、養蜂は職業であるとともに趣味でも行われてきた。紀元前8000年にさかのぼる最古の洞窟絵画のひとつには、ミツバチが飛びまわるなか、ハチミツを集める人間の姿が描かれている。西洋で初めて印刷された書物のなかには養蜂の手引書もあった。同 p10

 

 

 ハチミツの味わいはミツバチがどの花の蜜を集めたかによって異なり、使われる花の種類と同じくらい多様だ。また、どの地域で集蜜されたかによっても異なる。フランスには「テロワール」という概念がある。農作物が作られた土地の環境を反映し、土地ごとに味わいが異なるという考え方だが、非常に甘くて濃厚なハチミツにもその概念は適用できる。土壌、気候、周辺の動植物の種類が植物とその蜜に影響を与え、その結果、ハチミツの味わい、成分、品質にも影響を及ぼす。そしてさらに、ハチミツを食べる私たちを、自然や特定の場所や特定の文化と文字通り結びつけてくれる。ルーシー・M・ロング『ハチミツの歴史』  大山 晶 訳 p61

『ハチミツの歴史』 ルーシー・M・ロング 著 大山 晶 訳 
『ハチミツの歴史』  ルーシー・M・ロング 著 大山 晶 訳  原書房

 ハチミツは薬の苦さをこまかしたりのどの痛みを鎮めたりするだけでなく、それ自体が薬として使われることも多い。健康上のさまざまな理由により、昔から世界中で使われてきた。病気や災難を遠ざけるお守り、薬剤、抗うつ剤、一般的な強壮剤、力の源、さらには肌や髪の美容液として利用されてきたのである。その多くは、代替療法、迷信じみた話、あるいは民間療法として現在に引き継がれた。このように慣習的に利用されているのは、ハチミツとその宗教的な伝説とを関係づけて、ということもあるだろうが、多くは実際の経験や観察がもとになっている。ルーシー・M・ロング『ハチミツの歴史』  大山 晶 訳 p101~102

 

 

 今日、ハチミツは自然食品や有機食品、代替療法信仰と結びついている。蜂花粉、プロポリス、ローヤルゼリーといったミツバチの他の生産物も、ハチミツとともによく宣伝されている。西洋では、アビセラピー療法(蜂針療法)という新たな代替療法が知られるようになってきた。これはハチミツに長く慣れ親しんだ多くの非西洋医学の知識を採り入れたものだ。

 ハチミツに若干の治癒力と薬効があるとする科学的な研究も見られるが、研究の正当性をめぐっては医学界のなかで今も議論が進行中である。同 p102

『ハチミツの歴史』
『ハチミツの歴史』 目次

序章 ハチミツとは何か/第1章 ハチミツの甘い歴史/第2章 ハチミツができるまで/第3章 ハチミツを食べる/第4章 ハチミツを飲む/第5章 薬であり毒であり/第6章 ハチミツと文化/第7章 ハチミツの未来